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おうちの診療所

「関係の質」から社会課題を解決する診療所をつくる。

会社名

おうちの診療所

受講者・チーム

石井 洋介 / 松原 有咲

会社規模

  • 31-50名

利用サービス

PEER+(ピアプラス)

受講生インタビュー

「関係の質」から社会課題を解決する診療所をつくる。

ピアコーチングがもたらした組織の変化とは

2024/8/26

在宅医療を主とする診療所としてスタートした「おうちの診療所」。医師や看護師などの医療者も、事務やドライバーなどの非医療職もフラットに対話し、スタッフ間の関係の質を高めることが診療の質を向上させるという考えのもと、従来の医療組織とは一線を画す取り組みを実践しています。しかし、組織の拡大や新しい取り組みゆえの課題が浮上し、その解決策の一つとしてピアコーチングサービス「PEER+」を導入されました。PEER+導入を含む様々な施策の結果、スタッフ間の対話が促進され、離職率も改善するなどの変化が生まれたとのこと。「関係の質」を重視する組織作りに挑戦する同診療所の取り組みと、PEER+がもたらした効果について、中野院院長の石井洋介氏と人事担当の松原有咲氏に伺いました。

期待

●自分たちが理想とする診療を実現するため、関係の質を上げたい
●組織サーベイで課題と認識した「協働環境をつくる」ための土台にしたい

効果

●ブレストで出てくるアイデアの量が増えた。発言しない人がいなくなった
●心理的安全指標である「横の人に助けを求めやすい」のスコアが上がった
●関係の質を改善するための仮説検証を行いやすくなった

    「関係の質」を重視する診療所の課題

    ーまずおうちの診療所について教えてください。

    石井洋介(以下、石井)氏

    おうちの診療所は、2020年に在宅医療(訪問診療)を主としてスタートした診療所です。診療所が在宅医療を行う場合、一般的には地域に根ざした診療を行うため訪問エリアが自転車で行けるくらいのコンパクトな範囲になるケースが多いのですが、僕たちは最初からやや広範囲を、複数の医師でカバーする訪問診療を展開することを目指してスタートしました。この背景には、共同開業した伴医師と僕が、ともに厚生労働省で地域包括ケアシステムを担当していたことが影響しています。

    当時厚労省では、2025年問題で高齢者が急増し、病院での看取りを希望する人が増えた場合、病院のベッドが不足するけれど、増設してもその先は人口減少が待っているので不要になってしまう。この一過性のニーズに応えるには、病院外で看取りまでできる在宅医療を推進する必要があったものの、思うように良いモデルが広がらないという課題を抱えていました。もともと地域医療に関心があった伴医師と僕は、それならば自分たちが現場に立って、地域包括ケアのモデルになる在宅診療所を作ろうと決めて開業に至りました。

    ー複数の診療所をつくり、一定の地域をカバーする在宅医療グループというのは多くないのですね。どのようなモデルを目指しているのですか?

    石井氏

    東京都の場合、5つぐらいの診療所がそれぞれチームを作り、その中で医師とスタッフのローテーションを組めるようになれば、負担少なく24時間365日対応できそうというところまでは見えてきています。全国に広げていくイメージもありますが、都市部と地方では医療ニーズが異なるため、まずは東京でモデルを作り、ゆくゆくは各地域に適したモデルを作りたいなと考えています。出来れば、日本中に適したモデルの在宅医療が広がるような仕組みを提案していきたいです

    ー他にも同様の取り組みをしている診療所などはあるのでしょうか?

    石井氏

    在宅医療の診療所をグループ展開する先人はいますが、僕たちのように地域包括ケアの視点を持って複数の地域でモデルを構築しようと考えているケースは少数派かもしれませんね。

    右手を胸元で上に開く石井氏

    ーそうした診療所で石井さんと松原さんはどのような役割を担っていらっしゃるのですか?

    石井氏

    僕はおうちの診療所の代表であり、医師として臨床の現場に立ちながらマネジメントをする立場でもあります。一般企業は人・物・金・情報という経営資源のマネジメントが必要だと言われますが、医療業界は診療報酬や薬剤の価格が全国で統一されているし、提供価値の中心は人が生み出す診療なので、マネジメントの中心は”人”になります。ですので、どういった組織作りをするか、診療の質を一定以上に保つか、どのようにして「関係の質」を高めるかといったことを考える役割が自然と多くなります。

    松原有咲(以下、松原)氏

    私は人事・採用と総務を担当していて、採用面接や見学対応、従業員の勤怠管理、各医院でのシフト調整、新入職員の定期面談などを行っています。当診療所が重視している「関係の質」を高める取り組みとして、対話のワークショップの企画・運営もしています。半年に一度、丸一日ワークショップをしたりディスカッションする日を設けるほか、第3週の月曜日には毎月ミニワークショップを実施しています。ただ、お祭り的なイベントだけでは関係の質は高まりません。定期的な面談や悩み相談を通じて、日常の中でスタッフの状態を把握することも私の役割です。

    石井氏

    「関係の質」を大事にする背景には、僕自身の経験が大きく影響しています。以前僕は、外科医や厚労省という比較的、旧態依然とした縦型の組織で働いていました。ハードワークな現場で、関係の質よりはまず結果の質を求められる余裕のない日々。自分のパフォーマンスに自信がないと発言しにくい雰囲気がありました。本人たちには全く自覚はなかったと思いますが、そのような職場環境でチームメンバーの思考の質、行動の質が落ちて、診療や業務の質にも影響が出てしまうという体験もしました。「もっとフラットな良い関係性の中で、自由に議論できることを前提とした診療ができないか」と考え、ティール型組織*などの新しい組織の形を学んで始めたのがおうちの診療所です。

    *ティール型組織とは
    ティール型組織は、経営者や上司がメンバーの業務を指示・管理するのではなく、フラットな関係の中で協力しあいながら、メンバーが主体となって共通の目標達成に向けて成長を続ける組織のことを指します。

    ▼背景にある考え方:ダニエル・キム 成功循環モデル

    成功循環モデルの図解の画像

    出典:斉藤徹. "[ソーシャル11] コラボの技術 〜 学習する組織". JOIN THE DOTS 2018/6/23.https://www.join-the-dots.net/blog/socialcapital-11,(2024/8/16)

    ー関係の質から始まる診療所を目指す、といった思いから始まっていらっしゃるのですね。PEER+を受講される前から様々な取り組みをされていますが、どういった課題感を持っていましたか?

    石井氏

    例えば、救急医療は命を助けるという結果が一番大切なことですが、在宅医療は最終的にはほぼ全員がお看取りに向かっていくので、医療としての価値が全く違うところにあります。そんな在宅医療の現場において重要なことは、単一指標のアウトカムを目指すことではなく、患者さんやその家族、多職種と対話を通したプロセスを経て合意形成することでした。ご本人はもちろん、医師や看護師、理学療法士、作業療法士などのセラピスト、事務、ドライバー、ご家族など、それぞれの視点が重要で、意見を交わしながら診療方針を決めていく医療なのです。

    事務さんがご家族から電話で聞いていた情報が、治療の方針に大きな影響を及ぼすこともあり得ます。医療職同士はもちろん、医療職と非医療職もフラットにディスカッションができる関係を作らないと、診療の質は上がらないなと思ったんです。だからまず最初に僕らが目指すべきは、関係の質を高めて対話の土壌を作ることだと考えました。

    それで関係の質を高めるための対話のワークショップをやってみたら、結構うまくいった感覚がありました。ただ、ワークショップは毎日やるわけにいかないし、日常のコミュニケーションにも手をかけていく必要もありました。最初はマネージャーが適宜1on1で話を聞くようにしたのですが、マネージャーの人数も少なかったため、今度はマネジメントの負担が大きすぎるという課題が出てきてしまって。毎週、あるテーマを設定して、スタッフ同士が1対1で話をする時間も設けていたのですが、特に決まった型はなくやっていました。

    そんな時に今育休中の採用人事担当者からPEER+(ピアプラス)*導入の提案があり、PEER+を使えば、スタッフ同士で背景理解のための対話ができるようになるし、すれ違いも解消されるんじゃないかと思って相談させていただきました。

    *PEER+(ピアプラス)とは
    PEER+(ピアプラス)は、高度化するマネジメントを横のつながりで支える、日本初・唯一のピアコーチング(横の1on1)導入・定着のためのクラウドツールです。

    🔗PEER+サービスサイト

    ピアコーチングとは
    「ピア(peer)」とは、仲間・同輩・横のつながりという意味の英語で、力関係の格差のない関係性を指します。「ピアコーチング」は、その名のとおり「ピア」との「コーチング」、つまり仲間・同僚などの横のつながりの中での相互に育て合うコーチングの関わりを意味します。

    🔗ピアコーチングとは何か:その意味とメリット、実践方法や事例を解説

    課題感を話しながら1on1を手で表現する石井氏

    在宅医療の正解を考えるために必要な「関係の質」とは

    ースタッフ間のすれ違いが解消できないと、診療にどのような問題が生じるのでしょうか?

    石井氏

    終末期医療では、患者さんが何を大事にするかによって治療方針が大きく変わります。例えば「抗がん剤を使えば寿命が半年延びて痛みも取れるが、治療のために2カ月入院しなければならない。入院を選ばなければ寿命はあと3カ月」という患者さんがいた場合に、どちらを選ぶかは患者さんの価値観によって異なります。

    医療現場では、寿命は延ばせるなら延ばす方がいいと判断することも多いですが、短い余生であればこそ、会いたい人に会えたり、好きなものを好きな時間に食べられたりと、家で自分らしく過ごすほうが幸せだと感じる患者さんもいます。「最後まで美味しいビールを飲みたい」と望む患者さんがいた場合、副作用で味覚が変わる可能性がある抗がん剤治療を勧めるのは正しい選択なのか。少しでも長く生きられる選択肢を勧めることだけが正解かと問われると、わからないんですよね。

    どの視点で患者さんの幸せを捉えて治療方針を考えるかは、スタッフ間でも意見が異なることがあります。その患者さんの幸せについて、それぞれのスタッフが価値観に基づいて考えを持っているので、それを持ち寄って落としどころをつくる話し合いをしていくんです。その話し合いの場で大切なのが、お互いの発言の背景理解です。関係の質が低いままでは、この話し合いを健全に行うことができず、相手への批判につながったり、悪感情を生んだりしてしまいます。

    右手で顎を触る石井氏

    ーお話を伺っているととても難しいことを要求されていると感じます。理想的な状態とはどのようなものでしょうか?

    石井氏

    終末期医療は特に個別性が高く、価値観に左右される領域です。「最後まで自宅でビールを飲みたい人」、「最後は病院で、安心して人生を終えたい人」など、患者さんのその人らしさや幸せを多様な視点で考え、尊重し、支援することはとても大事です。しかし、なんでもかんでも患者さんの意見を受け入れられるわけではありません。まだ良くなる治療があるのに、患者さんがそれをやめて「がんが治る水」だけに頼ろうとしたら、医療職としては、医療のエビデンスに基づいて有効な治療を続けてもらえるよう働きかけなければなりません。最終的には、それが患者さんの幸せに寄与すると考えるからです。

    命を延ばすことが正解とされる医療職カルチャーの中で育った僕たち医療職が、「患者本人の幸せ」という、何が最善なのかがはっきり示されていないテーマについて、対話を続けられること。それが現時点では、最善で理想的な状態と言えるのかな。誰か一人の意見で方針が決定するのではなく、関係する人たちが一緒に考えながら議論を続けられる環境であることが大事かなと思います。

    終末期医療にはコーチング的な関わり方が必要

    ーありがとうございます。コーチェットには医療関係者の方からも多くの問い合わせをいただくのですが、多忙のため業務との両立に悩まれるケースが多いです。PEER+を導入される際、院内からの反対の声はなかったのですか?

    石井氏

    実は以前、別のコーチングサービスを導入したことがあったのですが、あまり上手くいきませんでした。「意味がない」という声もあったし、コーチングやコーチへの不信感は残っていたと思います。

    ですが、終末期医療というフィールドで働く僕たちは、患者さんに対して「あなたにとっての幸せとは何か」「あなたにとっていい最期の時間とは?」を問いかけるコーチのような立場にもなりうるんですよね。だからこそ、自分たちの組織内でもコーチング的な関わり方は必要だと感じていました。

    組織作りにおいても、対話で決める組織を目指していたけど、対話慣れしていない医療機関スタッフには対話するための素地ができていないのも課題としてあって。組織として対話スキルを高めて、対話のカルチャーを育てるためにも必要だと思い、導入を決めました。

    ーPEER+を導入することで、何が達成されたらいいなと考えていましたか?

    石井氏

    まずは、不満や愚痴みたいなものを、他責、愚痴として言って終わるだけの時間がなくなるといいなと思っていました。不満があっても、声に出して話していると、自然と客観視できて、不満を解消するために自分ができることが分かるっていうことがあるじゃないですか。それが横の関係であるピアコーチングの中で起こるといいなと思っていて。そしてその体験を臨床の場に活かして、自分の命が尽きそうなのに不満に振り回されている患者さんを導いていってあげられるようになるといいなと思っていました。スタッフ同士でやっていることと、患者さんに対してやることは同じだって気づいたら、自然とそういう機会も増えるんじゃないかなと。

    また、関係の質はどんな変数で上がっていくのか、関連性を解き明かしたいと考え、組織サーベイも実施しました。当時は、挨拶や声掛けをする環境はあるが、背景理解や協働についてはまだ進んでいない、といったことが結果として出ていたんですよね。

    そのため、組織を横断する協働プロジェクトとしての意味でもPEER+導入を決定しました。

    お取り組みの全体像一覧

    ーなるほど。実際にお二人がPEER+を体験されてみた感想を教えてください。

    松原氏

    受講者としては、1周目のコーチングスキル実践コースでは、仕事以外で感じる喜びや不安などを聞く機会も多く、相手の人柄を知るきっかけになりました。3カ月後や3年後の話をしていると、何を大事にしているのかが見えてきた印象がありました。

    2周目の経験学習コースは、2週間に1回、自分が立てた目標を振り返るので、目標を意識して取り組む習慣を作る良いきっかけになりました。また私とペアになったのは、子育てをしながら大学院に通っている医師でした。ある回で「子育てをしながら勉強をうまく進めるのが難しい」という話をしてくださり、どうすればうまくいくか目標を一緒に考えました。そのときは伴走できている気がしてとても嬉しかったです。ふだんは業務上での関わりが少なく、「休み希望を出してください」といった勤怠関連の連絡くらいでしか接点がなかったので、医師がどんな目標を持っていて、何を考えているのかを知る機会になったのが良かったですね。

    石井氏

    僕も受講者として同じような体験がありました。もともとコーチングは、自分より経験があって達観しているような人に話すから解決策が出てくると思っていたところがあるんです。でも今回、入職したばかりの事務スタッフにピアコーチングをしてもらって、悩みを話すだけでも解決する体験をしました。

    「石井さん、仕事のことはずっと考えているけど、父親としての振り返りはないんですか?」と聞かれた時に、何も振り返れなかったんです。父親として何もしてなかったことにその時気づいたんですけど、エグゼクティブコーチングだったら、たぶん出てこなかっただろうなって。ピアコーチングだから気づけて、ピアコーチングだから父親としての相談もできたなと思いました。

    ー院長としての石井さんしか見ていなかったお相手からしたら、そんな一面もあるんだなと人間味を感じられたんじゃないでしょうか。

    石井氏

    それがいいところだったなと思います。自分の中のコーチングの価値観が変わった体験でもありましたね。ただ対話の素地がない人がうまく対話するというのはPEER+を利用しても難しく、対話慣れしている人と慣れていない人を組ませるなど、マッチングには工夫がいるということもわかりました。

    笑顔で語る松原氏

    重要だけど緊急ではないことに取り組む覚悟と経営的価値

    ー運用担当者、意思決定者としてはどのような苦悩がありましたか?

    松原氏

    時間の確保がとにかく大変でした。当院は、火曜日から金曜日が診療、月曜日の午前中は緊急対応、午後はカンファレンスにあてています。このカンファレンス枠から一枠借りて、ピアコーチングにあてていたのですが、診療班の戻りが遅れたり、緊急の呼び出しが入ったりすると、不在になるスタッフもいます。そうするとそのペアの人がピアコーチングを実施できなくなる場合もあって。全員の時間を確保する難しさはありましたね。

    往診から戻ったらカルテ記載や関連事業所への連絡など、その日のうちに終わらせなければならない後処理もあるので、「時間が限られているなかで、ピアコーチングって言われても……」という声もあがっていました。

    また、そもそも対話が苦手な人や、職場の人に内面やプライベートを話すのに抵抗がある人もいて「この時間が苦痛です……」と言われたこともありました。

    強制的に話させる時間をとったことで、スタッフに負担をかけてしまったなという気持ちを抱えていました。内容に関しても、無理矢理話さなきゃいけない場ではないよ、というルール設計のやり様はあったのかもしれません。

    石井氏

    この業界では緊急の要件がどんどん割り込んでくるんです。だから、緊急じゃないけど重要なHRや人事の話、日常の愚痴や未解決の問題に取り組む時間は、意図的に確保する必要があります。それがワークショップであり、PEER+であると伝えてはいるけれど、「緊急のこのタスクをやらせてくれ」って声は上がってきます。それに対しては、「今日のことだけを考えていると、いずれは診療の質が落ちることになる」と言い続けるしかないですよね。

    ー重要だけど緊急ではないことの価値を伝えるにあたって意識されていることはありますか?

    石井氏

    どうだろう、伝わっていたのかなぁ。うちではカンファレンスの時間を週半日とっているけど、経営的にはその時間も診療に当てたほうがいいんですよ。診療しなければ対価は発生しないので。でもそこは絶対に守る。カンファレンスやPEER+、ワークショップが、往診の時間と同じくらい経営的価値があるからなんだって前提で取り組んでいることは、もっと伝えていかないとかな。最近は、タイパ(タイムパフォーマンス)重視みたいな風潮があると思いますが、正直、対話の価値はタイパとは対局的なところにあると思っています。だからこそ、タイパでは得られない価値を伝え続けないといけない。タイパだけ考えたら1秒でも多く診療した方が合理的ですが、中長期的なことを考えれば対話に投資する方が価値ある時間になると信じています。

    どこかで「マネージャーの生きざま自体がマネジメントである」って言葉を聞いたことがあって。自分が本当に、緊急ではないけど大事なことがあると信じてやり続けるしかないのかもしれません。重要なことに時間を割けば、緊急案件に追われる状態を減らしていくってことを、僕が体現していく必要があるのかなと思っています。今の僕はすごく慌ただしそうに見えるだろうから、説得力がないんですけど……(笑)。

    ピアコーチングで解消した不満と、背中を押した挑戦

    ーPEER+を導入して発展したこと、新しく生まれた行動などはありましたか?

    石井氏

    ワークショップで、医療の領域で発言することに慣れていなかった事務職の方も、どんどんアイデアを出してくれるようになって、ブレストで出てくる量が増えた感覚があります。「特にないです」とか「同じ意見です」みたいな発言で終わるケースもなくなったよね?

    松原氏

    そうですね。PEER+導入する前のワークショップでは、発言をせずに終わってしまう方が3人ほどはいたのですが、それはなくなったと感じます。一回でもいいから発言してみる、一つでもいいからアイデアを出してみるということができるようになってきているんじゃないかと思います。

    石井氏

    そうだよね。あとは、Google社でも利用されている心理的安全性指標の「横の人に助けを求めやすい」のスコアが上がってきています。一昨年くらいまで、3ヶ月での離職率が高かったのですが、みんな忙しそうで声をかけにくいとか、事務職は医療職に声をかけにくいといったことが課題でした。それで、オンボーディングを設計したり、新入職員研修を始めたりするなど、色々な打ち手を出してきた中で、PEER+もワークアップしたのではないかと思っています。

    一昨年は、1年で7人の離職者が出ていたのが、この昨年は2人でした。離職者数は減って、入職者数は増えていますが、給料を大幅に上げたとかはないので、ハーズバーグが言う衛生要因が影響したわけではありません。職場の関係性や動機付け要因が改善されたことで、離職者数が減ったと考えています。

    医療業界も離職理由の多くは、同僚や上司との関係ですよね。この問題を解消するための取り組みは重要だし、その1つとしてPEER+は有用なのかなと思いますね。

    右手を胸に当てる石井氏

    ー離職率の課題にPEER+が期待できるというのはとても嬉しいです。継続してPEER+を使う上で、課題になることはありますか?

    松原氏

    今後改善したいのは、同じプログラムを全員に導入しないようにすることです。例えば新入職員であれば、話を聞いてもらう人が必要なので、定期的に聞くプログラムを導入する。ベテランの人だったら、対話力を鍛えるプログラムよりも、業務に直結する目標や、プロジェクト達成のために活用してもらう。マネージャーであれば、マネジメントの課題を話す場にするといった、それぞれが欲しい対話のレイヤーがあるはずです。うまくカスタマイズをして使っていくと、もっと効果が出るんじゃないかなと思います。

    ー私たちも、カスタマイズを提案することでもっとうまく活用してもらえるなと感じました。PEER+を導入される前は、関係の質の向上が組織の課題と伺っていましたが、現在はどのような課題があると考えていらっしゃいますか?

    石井氏

    これまでは、院長がトップにいて、その他のスタッフはフラットな関係性の組織でした。院長兼マネージャーとして、僕を中心にマネジメントしていましたが、さすがに限界を感じています。いわゆる30人の壁を迎えて、いろいろなものを委譲していく時期になり、ミドルマネージャーをすえる必要が出てきました。

    組織にミドルマネージャーが生まれることで、これまでフラットだったゆえに生じていた課題の解消に期待しています。一方で、マネージャーとの関係性に、最初はやりにくさも出てくるでしょう。「今日からこの人がマネージャーです」と指名したからといって、急にうまく回るものではないですし、新しい関係性の中で、どの関係の質を高めるのが当院にとって良いのかを考えていかなければなりません。

    30人の壁を超えるための大事なフェーズに入っていきますが、これまで貯めてきた知見をうまく使いながら、仮説を持ってチャレンジしていきたいですね。

    左:笑顔で松原氏を見る石井氏 右:笑顔でインタビュワーを見る松原氏

    ー以前松原さんから、経営層に現場から直接声が上がることが減ったとお聞きしました。経営層のメンバーとして石井さんはどのように感じていらっしゃいますか?

    石井氏

    PEER+で話すことによって溜飲が下げられて、今までは経営層に話していた愚痴みたいなものが、消えていったのかなと思いますね。

    あとは、人事や松原さんのスタンスが、PEER+によってマネージャースタンスになってきたのを感じています。今までは愚痴を傾聴して終わっていたところから、僕と同じ視点で相手の行動変容を促すまでになったというか。組織をよりポジティブにすることを考えるようになってくれたような、そんな変化を感じています。

    ーそうした変化はどうして起こったのですか?

    松原氏

    前回の評価面談で、経営メンバーから「関係性の質にコミットしてくれて助かっている」と伝えてもらったうえで、「みんなへのフィードバックや面談をもっとやってくれたらよりありがたい」と言われたことがきっかけとして大きかったですね。そのときまでは、フィードバックは経営層の役割で、自分は不満や愚痴の声を聞いたとしても、報告するまでが役割だと思っていました。私は診療から一番離れている職員だし、自分が言っても響かないだろうという気持ちもあったんです。でも、「関係の質DAY」などのワークショップデザインを通し、普段から関係の質の高め方やコミュニケーションについて考えているからこそ、私が背負える役割とも言えるのかもしれないと思えて。それから、気になる言動を見聞きしたら声をかけたり、責任を持ってフィードバックしたりするようになりました。

    ー石井さんをはじめとする経営メンバーのフィードバックの上手さと、それを受け入れる松原さんのコーチャビリティ、素直さの両方によって生まれた変化ですね。
    最後に、PEER+を一言で表すとしたらどういったサービスだと思いますか?また、PEER+はどういった組織に勧めたいと思いますか?

    松原氏

    PEER+は、必ず自分のことを考えてくれる人がいると保証されている時間だなと思います。ふだんの雑談だと、いつでも会話を終わらせられるし、また今度ね、と話す機会が先延ばしになることもありますよね。でも、PEER+はその時間が始まると、2週間の振り返りから、次のピアコーチングを期限とする目標設定まで、相手が自分に対して関心を寄せ続けてくれます。必ず話を聞いてくれる相手がいるピアコーチングなら、自分のことをちゃんと話せるし、組織の中にひとりは自分を支えてくれている安心感を得た状態で普段の業務もできるようになる効果もあると感じていました。

    一緒に働く人の背景や、どういうことを大事にしているのかがわからなくて、長期プロジェクトや難易度の高い仕事がやりづらいと感じていたら、相手の言動の背景にある価値観を知るきっかけとしてPEER+をお勧めしたいですね。PEER+だけでは全ての課題をクリアするのは難しいかもしれませんが、課題解決の補助として使ってみるといいのではないかと思っています。

    石井氏

    素晴らしいまとめだね!コーチ役と選手役(クライアント)を入れ替えながら、どちらの視点も体験できるのがPEER+の一番の価値だと思います。現時点では、似たような境遇の人同士で使うのが合ってるかなと思っていて、医療業界であれば、看護師同士とか。同じような立場の人同士でコーチ役と選手役を入れ替えながら、自分と同じようなこと言ってる人の話を、ちょっと違う視点で聞くことにすごく価値があるんじゃないかなと思いました。

    笑顔の4人 左からインタビュワー・石井氏・松原氏・インタビュワー

    おうちの診療所さんが今後組織としてどのように発展していくのか、楽しみになる時間でした。
    石井さん、松原さん、素敵なお話を聞かせていただきありがとうございました!

石井 洋介
自身が潰瘍性大腸炎のため19歳で大腸を失ったことをきっかけに医師を志す。高知大学医学部卒後、消化器外科医として手術をこなす中で、大腸癌などの知識普及を目的としたスマホゲーム「うんコレ」の開発・監修、「日本うんこ学会」を設立。厚生労働省医系技官等を経て、現在は病院の外の医療の充実をテーマに、関係性の質にこだわった人材マネジメントで在宅医療診療所グループやコミュニティ開発事業等を展開している。おうちの診療所 中野院長、株式会社omniheal代表取締役、デジタルハリウッド大学院特任助教、高知大学デジタルヘルス学特任准教授などを兼務する。

松原 有咲
医療法人社団おうちの診療所の採用・人事・総務担当。採用面接や見学対応、入職時オリエンテーション、新入職員の定期面談、従業員の勤怠管理や労務関連の手続き、各医院でのシフト調整などを担う。大学時代にワークショップデザインやファシリテーションを学んだ経験を活かし、現職でも「関係の質DAY」をはじめとするワークショップデザインを行う。2022年から現職。

[文] 栗原 京子

[写真] 大倉 英揮

あなたのチームの現状や課題感について一緒に考えてみませんか?

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01.

現状や課題感を伝える

現状や感じていらっしゃる課題感をお話しいただき、状況と根本要因を整理します。

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要因の見立てと解決策を聞く

現状・課題・ご希望に応じて、解決策をご提案します。

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理想に向けたアプローチを決める

実現に向けてのロードマップや最初の一歩をご提案します。

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