Title
育成・マネジメント
組織開発
公開日
| 更新日

先日、日経新聞『令和なコトバ』で「サイパ」が紹介されました。
この記事では、サイパとはどのような考え方なのか、なぜ今この視点が必要とされているのか、そしてサイパを上げるためにリーダーは何をすればいいのかを、具体例を交えて解説します。
サイパとは、「サイコロジカル・リソース・パフォーマンス(Psychological Resource Performance)」を略した言葉です。投下した心理的リソース(心のエネルギー)に対して、どれだけの価値を生み出せているかを見る考え方で、次の式で表されます。
サイパ = 生み出されている価値 / 費やした心理的リソース
※この考え方は、書籍『なぜあなたのチームは疲れているのか』で提唱されているものです。

ここでいう心理的リソースとは、考える、判断する、感情を整える、人と関わる、難しいことに一歩踏み出す。そうした場面のたびに使われる「心のエネルギー」のことです。
お金や時間と同じように、無限に湧いてくるわけではなく、使えばすり減り、十分に回復しないまま使い続ければ枯渇してしまう、有限の資源です。
参考記事:心理的リソースとは?「心のエネルギー」という有限の経営資源を理解する

個人の資源に置き換えると、お金を分母にした投資対効果が「コスパ」、時間を分母にした投資対効果が「タイパ」です。どちらもすでに広く浸透している考え方ですが、同じように有限であるはずの心理的リソースについては、その有限性に意識が向かず、軽視されがちです。サイパは、心理的リソースを分母に置いて投資対効果を考える、いわば3つ目の指標です。
企業活動では、金銭的な投資対効果(ROI)がすでに重要な意思決定指標として定着しています。しかし、組織が成果を生み出すためには、そこで働く人の心理的リソースも同じく欠かせない資源です。にもかかわらず、それが「成果を生むための限られた資源」として扱われることは、まだ多くありません。
組織の中には、高い成果を上げる一方で、周囲を著しく消耗させている人がいることがあります。個人の短期的な生産性だけを見ていると、その人が周囲から奪っている心理的リソースは計算に入りません。心理的リソースという視点がなければ、個人の生産性を優先する判断がチーム全体のサイパを悪化させていても、それは「避けるべき行動」として認識されにくいのです。
AIの普及も、サイパの重要性を押し上げています。AIによって、文章や企画案、資料をつくるコストは限りなく下がっていきます。しかし、その中から何を選ぶか、何を捨てるか、誰にどう伝えるか、結果にどう責任を持つか。「選ぶ」「決める」「引き受ける」というプロセスは、AIが肩代わりしてくれません。むしろ、上司がAIを使って指示や施策案を短時間で大量につくれるようになれば、それを読み、優先順位を判断し、実行する部下側の心理的リソースの消費は増えます。発信する側の時間が節約されても、受け取る側の注意力や判断力が大量に奪われれば、組織全体のサイパはかえって下がってしまうのです。アウトプットをつくるコストがゼロに近づくほど、注意を向け、意味を見いだし、判断し、やり抜くための心理的リソースが、組織の成果を左右する希少な資源になっていきます。
サイパの低さは、明らかな無駄遣いとしては現れないことがほとんどです。
たとえば、部署の代表メールアドレスに顧客から問い合わせが届いたとき、「誰が返信するのか」が決まっていないとします。メールが届くたびに、メンバー全員が「自分が返したほうがいいのだろうか」と考えることになります。一人ひとりの迷いはわずかな時間かもしれませんが、それを足し合わせると、チーム全体では無視できない量の心理的リソースが失われます。しかも、誰も対応しないまま時間が過ぎれば、顧客対応の遅れという形で価値も損なわれてしまいます。
「担当を決めていない」という状態自体には、時間もお金もかかっていません。しかし、メンバーの判断コストが積み重なり、対応の遅れという形でチームの価値が損なわれるなら、心理的リソースの消費は増え(分母が大きくなり)、生み出される価値は減る(分子が小さくなる)。つまりサイパが悪化している状態です。
複雑な承認プロセスや、在宅勤務の広がりなども同様です。かかる時間やコストだけを見れば合理的な判断でも、「今お願いして大丈夫だろうか」という迷い、「進捗はどうだろう」と想像する負荷を伴うなら、それはサイパの悪い意思決定になりえます。 組織の中には、「明らかな無駄遣いではないけれど、価値を生んでいない、あるいは毀損している」活動が、思っている以上に隠れています。

サイパという言葉を聞くと、「心理的リソースをできるだけ使わないようにしよう」という節約の発想だと捉えられがちですが、それは半分しか合っていません。
大きな挑戦をすること、誰かを支えること、難しい対話に踏み込むこと。これらはいずれも心理的リソースを大きく使う行為です。しかし、それによって成果や成長、充実感、信頼関係が生まれるなら、投下した心理的リソースが大きくてもサイパは高いと言えます。逆に、投下した量が小さくても、意味のない会議や曖昧な指示、根拠のない不安によって消耗しているだけなら、それはサイパが低い状態です。
大事なのは消費量を減らすことではなく、その消費によってどんな価値をどれくらい生んでいるかに意識を向けることです。
たとえばサッカーの試合にゴールやオフサイドのルール、フィールドの境界線がなければ、選手は判断のたびに迷い、心理的リソースを無駄に消耗してしまいます。職場のチームも同じです。何を達成すべきか(目標)、誰がどの役割を担うのか(役割)、どんな基準で判断すべきか(ルール)、それを支える枠組み(仕組み)。この4つが曖昧なままだと、メンバーは日々の判断のたびに迷いを重ね、それだけでチームの心理的リソースが消耗していきます。構造を整えることは、消耗そのものを未然に防ぐ、最も基本的な打ち手です。
「疲れている」「ストレスを感じている」という言葉は、口にしづらいものです。弱音と受け取られ、「甘えているんじゃないか」と思われることを恐れるからです。一方で、「心理的リソースが消耗している」という表現であれば、事実として伝えやすくなります。チームで心理的リソースという言葉を共有し、何にどれだけ使っているかを率直に語り合えるようになると、お互いに配慮し合い、消耗を防ぐ工夫がチームの中に自然と生まれていきます。
ある組織では、日報に「今日の心理的リソースの消耗度」と「心理的リソースを有意義に活用できた度合い」を、それぞれ5段階で記録する項目を設けました。消耗度が高いのに活用度が低い日が続けば、不要な会議や曖昧な指示に心理的リソースを浪費している可能性が見えてきます。逆に、消耗していても活用度が高ければ、重要な挑戦にエネルギーを使えているとわかります。この記録は人事評価には一切使わず、本人の自己認識と、仕事の構造を見直すための対話材料として扱われました。結果として、「もっと頑張れるか」ではなく「限られたエネルギーを何に使うべきか」という会話が増え、優先順位や役割分担、声のかけ方が見直されていったといいます。
サイパは、コスパやタイパと対立する考え方ではありません。むしろ、コストや時間だけでは見えていなかった「心理的リソースの消耗と回復」という隠れた資源の存在に光を当て、より的確な経営判断やマネジメントにつなげる、もう一つの物差しです。
ただし、この視点を頭で理解することと、実際にチームの中で機能させることの間には距離があります。何が自分やメンバーの心理的リソースを消耗させているのかは、当人だけでは気づきにくいことが多いからです。
コーチェットでは、心理的リソースという視点を使いながら、リーダー自身の消耗への対処、メンバー一人ひとりの状態理解、チームの構造づくりまでを扱うトレーニングを行っています。
「頑張っているはずなのに、チームの成果が伸びない」と感じている方は、まずは無料でご相談ください。
▼無料相談予約はこちらから
https://coached.jp/business/entry▼ 【期間限定】「サイパ」向上キャンペーン開催中
https://coached.jp/psypa
この記事を書いた人

| Editor
「すべての人が、互いを生かし、育て合う社会をつくる」がミッション。個人およびチームに対するコーチングのアプローチを通して、経営メンバー・マネージャーが「学び、対話し、目標に向かって成長していく」ための育成・組織づくり支援サービスを提供。
型を教えることではなく、プログラムのパーソナライズをすることを通し、その会社ならではのリーダー育成を行うことを支援している。

コーチェットメンバーやクライアントのみなさまのリアルな声から、組織づくりを行なっていくための視点をお届けします。
ラジオを聴く

CoachEdのLINE公式アカウントを「友だち追加」していただいたみなさまに、最新の受講生インタビューやキャンペーン情報をお送りします。
友だち追加はこちら
Scroll
中長期的な自社ならではの組織づくりを
対話型トレーニングで

CoachEdは個人およびチームに対するコーチングのアプローチを通して、経営メンバー・マネージャーが「学び、対話し、目標に向かって成長していく」育成・組織づくり支援サービスです
サービスページへ


PEER+(ピアプラス)は、横のつながりから強い組織をつくる、日本初・唯一のピアコーチング導入・定着のためのトータルサポートサービスです。
サービスページへ
投資先のバリューアップを引き出す
コミュニケーションスキルを身につける

personal training for VC
40人以上のベンチャーキャピタリストが受講するCoachEd パーソナルトレーニング。投資先の経営陣や育成対象のメンバーの「成長」をデザインするコミュニケーションスキルを、自身の課題やニーズに合わせてカスタマイズしながら身につけることができます。
サービスページへ
メンタル面を整えたい
経営者のためのカウンセリングサービス

mental support
経営者のメンタルヘルスを支えるためのカウンセリングサービスです。投資家や支援者のみなさまのご支持により運営され、ご支援先の経営者様が無償でご利用いただけます。リーダーが抱える不安や不調に伴走し、 自己基盤を整えるサポートを行います。
サービスページへ
投資先のバリューアップを引き出すコミュニケーションスキルを身につける

personal training
for VC
40人以上のベンチャーキャピタリストが受講するCoachEd パーソナルトレーニング。投資先の経営陣や育成対象のメンバーの「成長」をデザインするコミュニケーションスキルを、自身の課題やニーズに合わせてカスタマイズしながら身につけることができます。
サービスページへ
メンタル面を整えたい
経営者のためのカウンセリングサービス

mental support
経営者のメンタルヘルスを支えるためのカウンセリングサービスです。投資家や支援者のみなさまのご支持により運営され、ご支援先の経営者様が無償でご利用いただけます。リーダーが抱える不安や不調に伴走し、 自己基盤を整えるサポートを行います。
サービスページへ

© CoachEd Inc.